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東京高等裁判所 平成6年(ネ)2875号 判決

控訴人

トヨタ工業株式会社

右代表者代表取締役

新村敏光

右訴訟代理人弁護士

土田庄一

被控訴人

北野正明

被控訴人

中山光雄

右被控訴人ら訴訟代理人弁護士

桝井眞二

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。

2  右部分につき、被控訴人らの請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は第一・二審とも被控訴人らの負担とする。

二  被控訴人ら

本件控訴をいずれも棄却する。

第二事案の概要

当審における主張を次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」第二(本誌六五五号〈以下同じ〉18頁2段4行目)に記載のとおりである(ただし、原判決九頁八行目の「原告」(19頁2段6行目)を「被控訴人ら」に改める。)から、これを引用する。

一  控訴人

被控訴人らは、平成五年四月一五日の昇給辞令の受領を拒否してその後退職するに至ったものであるから、仮に退職金請求権があるとしても、その額は昇給前の賃金額を基礎として算定されるべきところ、昇給前の賃金額は、被控訴人北野の基本給が一三万九〇〇〇円、職能給が一三万円であり、同中山の基本給が一二万九八〇〇円、職能給が一一万七七〇〇円であるから、退職金額は、被控訴人北野が二五五万五五〇〇円、同中山が五九万四〇〇〇円となる。

二  被控訴人ら

被控訴人らが昇給辞令を拒否したことはない。被控訴人らに対する平成五年四月分の給与は昇給後の賃金額で支給され、また、控訴人の被控訴人らに対する解雇予告手当ても昇給後の賃金額を基に支払われており、控訴人の主張は理由がない。

第三争点についての判断

当裁判所も、被控訴人らの本訴請求は、原判決が認容した限度で理由があり認容すべきものと判断する。その理由は、控訴人の当審における主張に対する判断を次のとおり付加するほか、原判決の「事実及び理由」第三(19頁1段21行目)に説示のとおり(ただし、原判決一〇頁六行目の「三四〇万七五〇〇円」(19頁2段24行目)を「三四四万三七五〇円」に、同二一頁六行目の「右社員らは」(21頁2段4行目)を「被控訴人北野を除く被控訴人中山ら第一営業部員数名の者は、結果的に集団で出社しないことにはなったが」にそれぞれ改める。)であるから、これを引用する。

控訴人は、被控訴人らが昇給辞令の受領を拒否して退職したので、退職金額は昇給前の賃金額を基礎として算定されるべきであると主張する。しかし、引用した原判決の「事実及び理由」第三の二2に説示のとおり、昇給辞令交付日である平成五年四月一五日、被控訴人中山は出社せず、また、同北野は、米屋経営統括管理本部長に対し、「気持ちが不安定で整理がつかないので早退させて欲しい。昇給辞令は、本部長預かりにしてほしい。」と告げ、その後、同本部長に対し、「有給休暇で休ませてほしい。」といって退社し、結局、昇給辞令を受領するに至らなかったにすぎず、被控訴人らが昇給辞令の受領を拒否したとする(人証略)の供述は採用することができず、他に被控訴人らが昇給辞令の受領を拒否した事実を認めるに足りる証拠はない。のみならず、証拠(〈証拠略〉)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、被控訴人らに対し、昇給辞令を撤回したことはなく、かえって、昇給後の資格給、職能給等に基づいて、同月分の給与及び解雇予告手当てを支払ったことが認められるのであるから、控訴人自身が昇給の効果を認めているものというべきであり、控訴人の前記主張は、採用することができない。

よって、原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 清水湛 裁判官 瀬戸正義 裁判官 小林正)

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